8.19.2017

砂漠の村へ

広大な砂漠を一直線に突き抜ける道路を歩いていた。前方の風景は、幼稚園児が絵に描いたような青い空と薄茶色の地上。地平線に向かって点に萎んでいく灰色の筋。背後を確認すると、そっくり同じ絵になっていた。万が一、方向感覚が狂うことを想像するだけでゾッとした。歩く時も、道端で休憩するときも、「こっち」の地平線から視線をそらさないよう、いちいち注意していた。

歩き続けて三日間。この先に集落があることは確かな情報のはず。教えてくれた人が私に恨みを抱く理由も思いつかないし、概ねまともな人間に思えたからだ。

あまりに辺鄙で、あまりにもおかしな環境だ。開拓者が意図して選んだ場所というより、きっと疲れ果てて動けなくなった地点が村になったのだろう。どのように生き延びてきたのか、じっくり聞いて見たいものだ。

あと二、三日で着くだろうか。

7.31.2017

家庭内国境

父親がアメリカ人になった。

かれこれ17年前に私は日本に帰国したが、両親兄弟は皆アメリカに住み続けている。私にとって帰国することがごく自然な流れであったように、私以外の家族にとってアメリカに根をはることがごく当たり前なことだった。同じ血筋で、概ね同じ生活を共有してきた間柄にも関わらず、これほどくっきり選ぶ道が分かれたことは今でも不思議に思う。

私の家族はよくも悪くも薄情者のあつまりだ。冠婚葬祭のときは集まるが、用がなければコミュニケーションはまばらだ。決して仲は悪くない。むしろ、成人してからは親兄弟をよりよく想い合うようになった気がするし、合える機会があればその限られた時間を大切にしようと心がけている。

こないだ末っ子の妹が結婚した。縁起でもないが、兄弟のいずれかが離婚でもしない限り結婚を理由に集まることはもうない。

6.30.2017

最後は同じ

加藤加代子、17才。幼い頃から長い髪の毛が自慢で、周りが何を言っても切ることを拒んだ。いまは足首まで伸びている。編むのも一仕事なので、いつもは一本のポニーテールに束ねている。もっとも、見た目は仔馬の尻尾どころの大きさではない。

他人と比べれば生活の不便はあるが、彼女にとってシャンプーリンスの消費量も、乾かす手間もエレベーターのドアにヒヤヒヤするのも日常のごく一部に過ぎない。

一見で変わった子ねぇ、といいたがるのが大衆というもの。ただ、身体の一部の見た目を除けばいたって普通の郊外都市の女子高生だ。友達もいるし社交的、成績も普通、いっちょまえにファッション、趣味、異性への憧れだってある。

カヨっちの髪さぁ、願掛けか何かしてんの?

そんなんじゃないよ。気に入ってるだけ

一生伸ばすの?

ムリムリ笑 足首まで来てるし、それ以上伸びたらきたない

えー切るときあたし立ち会う!次はどれくらいの長さにするの?

迷い中笑 みやぽんと同じくらいでもいいかなーって

えーつまんないー

ネタじゃないし笑

5.30.2017

神の子

僕の名前は中田潤吉、今年19歳になります。大学に通わせてもらってますが、家の手伝いが忙しいので授業以外では学生らしいことをあまりしていないのかも知れません。

私が子供のころから、両親は「三日月の光」という宗教の入信者でした。毎週の集会に参加したり、お布施を払ったり集めたり、ニュースレターの編集や印刷、休みの日は勧誘したり。年に何度か群馬で行われる大きな集会に遠征します。

僕自身、一応入信してるけど教えの内容について詳しくないです。信者はみんな感じがいい人で、子供の頃から可愛がってもらってます。安易な考えかも知れませんが、出来上がった人間がまともなら教えも悪くないんじゃないかなと思っています。

両親は僕にもっともっと積極的に勧誘するように言います。もとより友達が少ないので難題ですが、限られた学校にいる時間で友達を作ろうと努力しています。知り合いはすぐにできたけど、やはり宗教の話を持ち出すと自然と距離を置かれてしまうのが実情です。知り合ってから1ヶ月、半年、いろんなタイミングで試してみましたが結果は同じ。

このままだと一生友達や恋人ができないんじゃないかと不安な今日この頃です。

5.05.2017

前線離脱

長坂弘樹、39歳自営業。東京の飲食業の厳しさを痛感している今日この頃。

念願のカフェをはじめて一年足らずで店じまいすることになった。23区内とはいっても住宅地のどまんなかだった。振り返れば、店を建てればお客が気づき足を運んでくれるだろうという見通しが甘かった。結局一般人が個人営業の暖簾をはじめてくぐることにはハードルがとても高い。口コミ、ウェブ、チラシといったきっかけづくりも重要で、カフェ環境やメニューの良し悪しはその後の再来店を促す役割。もちろんどちらも怠ってはいけない。

閉店後の支払いや現状復帰の工事も一段落し、長坂は当面食いつなぐため友人頼みでウェブデザインやチラシの仕事を紹介してもらっている。凝り性のため、これはこれで自分に合った仕事だと考えてる。年齢的にまったく新しいことに取り組む意欲もなければ、もう失敗は許されないのだ。

実績が少しできたら自分から営業をかけてみることも考えており、カフェなど地場の自営業のニーズに応えるビジネスを目論んでいる。