10.06.2017

それでも俺はやってしまった

遠山春斗、男43才。無職バツイチ文無し予定。城東警察署の留置所より。

みっともない話なんだが、オレオレ詐欺の容疑で捕まった。若い女性を妊娠させてしまい、長年疎遠になっていた母親をあてにしたのがいけなかった。80才の母はすっかりボケてしまっているが、毎日乗るバスの車内放送で流れる詐欺防止のアナウンスだけは頭に叩き込まれていたようだ。実の息子を警察に通報してしまった事態も把握できていないだろう。

かあちゃん俺だよ俺。何の変哲も無いセリフが詐欺の代名詞となってしまった。

9.24.2017

この田中実

世の中に「田中実」が2,620人いるらしいが、とりわけこの田中実がすごい。どの田中実かって、そりゃあ1984年3月21日生まれ埼玉県上尾市在住、男性会社員独身天然パーマの方の田中実に決まっている。

どうすごいかというと、とても一言では語りきれないが、ひとつ特徴を挙げるとしたら、とても誠実でやさしいところだ。競い合うことを嫌い、そのため平均以上の業績を出さないし、同僚が大きな手柄をあげても妬むことなく自分のことのように喜ぶような男だ。来年課長に昇進するらしい。

趣味は映画鑑賞と旅行で、最近のお気に入りの映画は「ララランド」、良かった旅行先は「台湾」だったそうだ。ゴールデンウィークとシルバーウィークに合わせて毎年予定を入れるらしい。

君の相手としてどうだろう。いつでも紹介してやってもいい。

顔?

顔は普通だ。

8.19.2017

砂漠の村へ

広大な砂漠を一直線に突き抜ける道路を歩いていた。前方の風景は、幼稚園児が絵に描いたような青い空と薄茶色の地上。地平線に向かって点に萎んでいく灰色の筋。背後を確認すると、そっくり同じ絵になっていた。万が一、方向感覚が狂うことを想像するだけでゾッとした。歩く時も、道端で休憩するときも、「こっち」の地平線から視線をそらさないよう、いちいち注意していた。

歩き続けて三日間。この先に集落があることは確かな情報のはず。教えてくれた人が私に恨みを抱く理由も思いつかないし、概ねまともな人間に思えたからだ。

あまりに辺鄙で、あまりにもおかしな環境だ。開拓者が意図して選んだ場所というより、きっと疲れ果てて動けなくなった地点が村になったのだろう。どのように生き延びてきたのか、じっくり聞いて見たいものだ。

あと二、三日で着くだろうか。

7.31.2017

家庭内国境

父親がアメリカ人になった。

かれこれ17年前に私は日本に帰国したが、両親兄弟は皆アメリカに住み続けている。私にとって帰国することがごく自然な流れであったように、私以外の家族にとってアメリカに根をはることがごく当たり前なことだった。同じ血筋で、概ね同じ生活を共有してきた間柄にも関わらず、これほどくっきり選ぶ道が分かれたことは今でも不思議に思う。

私の家族はよくも悪くも薄情者のあつまりだ。冠婚葬祭のときは集まるが、用がなければコミュニケーションはまばらだ。決して仲は悪くない。むしろ、成人してからは親兄弟をよりよく想い合うようになった気がするし、合える機会があればその限られた時間を大切にしようと心がけている。

こないだ末っ子の妹が結婚した。縁起でもないが、兄弟のいずれかが離婚でもしない限り結婚を理由に集まることはもうない。

6.30.2017

最後は同じ

加藤加代子、17才。幼い頃から長い髪の毛が自慢で、周りが何を言っても切ることを拒んだ。いまは足首まで伸びている。編むのも一仕事なので、いつもは一本のポニーテールに束ねている。もっとも、見た目は仔馬の尻尾どころの大きさではない。

他人と比べれば生活の不便はあるが、彼女にとってシャンプーリンスの消費量も、乾かす手間もエレベーターのドアにヒヤヒヤするのも日常のごく一部に過ぎない。

一見で変わった子ねぇ、といいたがるのが大衆というもの。ただ、身体の一部の見た目を除けばいたって普通の郊外都市の女子高生だ。友達もいるし社交的、成績も普通、いっちょまえにファッション、趣味、異性への憧れだってある。

カヨっちの髪さぁ、願掛けか何かしてんの?

そんなんじゃないよ。気に入ってるだけ

一生伸ばすの?

ムリムリ笑 足首まで来てるし、それ以上伸びたらきたない

えー切るときあたし立ち会う!次はどれくらいの長さにするの?

迷い中笑 みやぽんと同じくらいでもいいかなーって

えーつまんないー

ネタじゃないし笑