7.30.2006

コロッケを貪りながら

今日は盆踊りでした。花火も見てきました。

仮面ライダーのお面、ヨーヨー釣り、やきそばとかき氷。

子供も、知らないオッサンに頭をなでられる。

会う人が皆笑顔。オッサンもオバサンもヤンキーも。

ベタだが、下町のふれあい。

楽しかった。心から夏でよかったと思える、数少ない日を過ごす。

盆踊りの輪には、多分町内会かなにかで練習をしてきた人たち。なかでずば抜けた貫禄を放つのはやっぱり、おばあちゃん達。長年にわたって、なんど同じ音頭を踊ってきたのかしらん。踊りの先生らしき男性よりも、お母さんたちよりも、子供たちよりも。いつもおばあちゃんたちが一番上手だ。どの街もそうではないかと思う。動きがしなやかで、エレガントで、表情が最高にメランコリックだ。

若いオナゴの浴衣姿を見て鼻息荒くムフフフするのも当然グレイトやが、このおばあちゃん達の踊りっぷりというのは圧巻するアートだと思う。

7.25.2006

キッチンタオルは見た

女はひどく酔っ払っていて、一人暮らしのマンションに帰宅するとまっすぐ台所に行き、冷蔵庫からポカリを取り出した。飲み干したペットボトルをごみ箱に投げ込み、尻をポリポリかきながら風呂場に向かった。

「ちっ、また半ドアかよ」

我慢の限界だった冷蔵庫は重い口を開いた。暗闇の中、台所がざわめく。お前も喋れるのか、我も我もと、次から次へと家電達が目を覚ました。この数年間、皆それぞれの孤独を生き抜いてきたが、こんなにも身近に仲間が密集していることに、今夜はじめて気づかされた。台所はしばらく歓喜に包まれた。

冷蔵庫をはじめ、下の階の冷凍庫、炊飯器、ガスレンジ、電子レンジ、換気ファン、魔法瓶、(出番の少ない)ホットプレートは粗大ゴミ行きまでの友情を誓い合った。ただ、話合いをするにも共通の話題があまりなかった。冷蔵庫は米の炊き方も、換気扇の回し方も、電子レンジのらくらくメニューについても、まったく共感できない。結局、女の話題になった。当然、愚痴の言い合いがその結果だった。

どうにかして女をこらしめることはできないかと、家電達は考えた。故障したとしたら、誰が一番女に迷惑をかけることができるか。

「当然あたいやね。だって、ご飯炊けなかったら食事にならんもん。」

「メシ炊くのは週末だけじゃ。あの女は週4回はコンビニ弁当。オイラがいなきゃオナゴのメシはカチンコチン」

「火がなきゃ、料理とはいわんね。その気になれば、俺だって米くらい炊けるもん」

皆の熱弁は次第にエスカレートしていった。
突然冷蔵庫が怒鳴った。

「ミチコさんを支えてるのは俺だ。もんくあるやつはかかってこい。」

7.24.2006

キャンディの方が嬉しい

僕は、ゴルフというやつは基本的にダメだ。
聞いてやってもらいたい。

友人の家においてあるクラブを部屋で振り回して怒られたり。ゴルフボールの積み上げでギネスブックにチャレンジごっこをして怒られたり(自己ベストは2コである)、なにかと怒られっぱなしである。

食わず嫌いと言われてしまえば、その通りだと思う。人生短い。冷静に自己分析をした結果、多趣味をこなす要領もないと思っている。偏見がないといえばウソだ。ゴルフコースなんかに踏み入れた日には、玉手箱を空けてしまったかのように歳をとってしまうのではないか、という恐れもある。

楽しさが理解できていないのかもしれない。楽しいと思ってる人にはその魅力を教えてもらいたい。交流とか、昼間からビール飲めるとか、そういうの以外で。せっかく思いっきりひっぱたいて遠くに飛ばしたボールを、なぜわざわざ追わなければならない。ひっぱたいて追っかけての繰り返しの挙句、その先に何があるのか。

ちっこい穴、だ。
個人的には、がっかりだ。
ボスキャラのひとつでも、欲しいと思わないだろうか。

7.23.2006

詩的許容

奈良氏は小説家で、今はある雑誌の連載を書いている。

一言でいえば、中年男の切ないラヴストーリーだが、主人公は一人だけではない。その男の他にも、その愛人、男が勤める会社の同僚、愛人の姉、二人の行き着けのバーのマスターなど、ざっと十人の登場人物がある。主人公が一人でない理由というのは、全ての文章が独り言だからだ。毎週、登場人物を一人挙げている。十人分の連載を書き終えるまで、時間が止まってることになる。十人分書き終えたところで、ようやくストーリーの日付けも変わる。

何ゆえこのような物語になったかは定かでないが、雑誌の編集者を悩ませているのは確かだ。なにせキャラクター同士のやりとりがまったくないものだから、途中から読む読者はストーリーがまったく理解できていない。単純につまらない、おもしろくないの評判であれば対処は簡単だが、読者の問い合わせはほとんど質問だ。

今週は十二週目で、男と女が出会った翌日の、バーのマスターの番である。

7.21.2006

夏のエチュード

昔みたことがあるような、扇風機。
透明の深緑のプラスチック羽根が4枚。
ステンレスの網。白い麻雀パイのようなスイッチが4つ。
「消」「弱」「中」「強」

「強」のスイッチを強く押す。モーターがうるさく鳴り、羽根がゆっくり加速していく。ブォーブォーうるさい。聞いたことあるような音。畳の匂いが思い浮かぶ。小さいころ、扇風機と同じ身長くらいだったころは、夏、風呂上りに真っ裸で扇風機の前に立ってた。

なぜか両手を腰にあててたような気がする。
ジーッと見つめていると、ゆっくりと逆回転しているようにも見える。

「消」のスイッチを押すと、へこんでいた「強」のスイッチがポコっと元に戻る。モーター音は消えるが、羽根が延々と回りつづける。名残惜しく、10秒か、20秒、回りつづけて少しずつ減速していく。

7.16.2006

NHK大好き

恐竜とほ乳類の進化についてのテレビ番組を見た。

スーパーザウルスっていう、まるでオモチャかのような名前をした、首の長い恐竜がある。100年もの寿命だったらしい。それに比べて、当時のほ乳類は、見かけはドブネズミみたいで、寿命は数年に過ぎなかったらしい。番組の学者さん曰く、ほ乳類のこの短命が進化のカギの一つである、とのこと。スーパーザウルス一匹が生まれて死ぬまで、ドブネズミの人口は何世代も回転(?)していて、恐竜を追い越してガンガン進化してきたという。

ということで、単体で考えれば確かに悲しい生命だが、ドブネズミ人口としてはこれが大助かりだった、ということになる。

インターネットで適当に調べてみたが、今現在、人間より長い平均寿命を持つ動物はあまり見あたらない。一部のカメくらい。んなわけで、振り出しに戻ってるということなんでしょうか。

7.14.2006

楽しい通勤ライフを

どこかで聞いたことのある話です。ネクタイというのは、男子の潜在意識の中でティムポを象徴するものらしいです。言われてみれば、納得してしまいました。いかがでしょうか。

男性のスーツ姿というのは一言で言えば地味で、工夫するにも限界があります。女子の選択肢と比したら、なお。最低限の地味さを保つために着るものでもあるので、下手に工夫すると悪い意味で目立ってしまいます。カフリンクだのスティッチだのサスペンダーだの、細かいことはいろいろできますが、よくばって色々やるとカッチョ悪くなってしまいます。私見ですが、どうせ数メートルも離れてしまえばエロガモももコナカも同じ、なんて言っちゃってもオカしくないんじゃないか、と思います。ちゃんとサイズが合ってて、シャツもパリッとしてりゃあなんとかなるんです、ね。

その中でネクタイという存在がどういう位置付けになっているかというと、限られた「スーツ」という枠の中で唯一、遊び心を利かせられるところです。この事実と、ネクタイが象徴するものを合わせて考えると。かなり幅広いスペクトルに渡って、世の中のティムポはワンダホーに表現されているということになります。

強く締める人。

ゆるめに締める人。

長く締める人。

短く締める人。

キャラもの。

柄もの。

明るい色。

暗い色。

ホットピンク、な人。

宴会で、頭に巻いちゃう人。

まず自分の身から守っておこうかと思いますが、僕はネクタイが嫌いです。必要がなければ締めません。どうしてもという場面では、基本的に一本だけ、「普通」の紺色のネクタイをスタンバイさせています。そのネクタイを、「普通」の長さで「普通」の強さで「普通」に締めます。

・・・おしまい。

7.13.2006

夕暮れのランデヴー

あたし26歳の悩殺OL。ヤケドするわよ。

実は、あたしとっても困ってるの。ポストに手紙を入れようとしたら、左手がはまっちゃって抜けなくなっちゃったの。お昼休みもとっくに終わってるのにず~っとここに突っ立っているの。腕時計も見れないわ。どうにかならないかしら。生まれて初めてクソッタレって大声で怒鳴ってみたわ。脇の汗が滝のようだわ。ダサくて恥ずかしくてもう大変。

見ただけで状況がすぐバレちゃうじゃない、これ?きっとそうよね。人にかける言葉が見つからないわ。何て言えばいいのかしら、「すみません、ポストにはまっちゃいました」って・・・。笑われちゃうわ。知り合いにも他人のフリされちゃってショックだった。そうよね。助けるにもなにも出来ないわよね、実際・・・。あたしはいつまでここにいるのかしら。

そろそろ日が暮れるわ。とてもキレイ・・・。お化粧がどうなってるのかも、どうでもよくなってきちゃったわ、あたし。今夜予定してたお友達とのディナーにもいけなさそう。郵便のお兄さん、さっき助けを呼んでくれるって言ってたけど、どうなったのかしらん。

テレビの今日のラッキーカラーは確か、赤だったと思うの。

7.12.2006

クロスカウンター

この数年間。

いつかでっかいバイクに乗りたいという夢を、さりげなく、ほのめかしている。徹底したジャブ戦術である。ヨメは持ち前のスタミナで、当面倒れそうな気配もなかった。マンションの近くにそこそこイケてるバイクが止まっているたび、

「うわぁかっこいいよね、これ。ひゅーひゅー。」

27歳男なりに精一杯の瞳の輝きと初々しさをかもし出そうと努力をしてきた。

一ヶ月前くらいだったかな。

導入された、電動自転車。

「楽なのよねぇ、これ。子供乗せても全然疲れないのよ。ケイスケくんも乗ってみたら?面白いから。ほら、バイク乗りたいって言ってたじゃない。」

とまぁ。

いっか。

7.07.2006

コリドー通りの魔物

蒸し暑い夜。銀座の夜が幕を閉じるころ。
線路沿いのコリドー通りを歩く。
ネオンと黒ずんだレンガが溶け合う。
甘いリキュールの匂いが路上にまで漂う。

白タクのおじさんが待ち受ける。
ホステス達は、満足げのお客をつれて、
無数の巣穴から次々と出てくる。
みんな笑顔。とても平和。

今夜もお疲れ様。

おやすみなさい。

ガード下に、一箇所だけ店で埋まってないレンガの壁がポツリとある。ほら、静まり返った金券屋のとなり。この壁には、コリドー通りの魔物が封じ込められている。だから、この壁は取り壊してはいけないことになってる。真っ黒の肌をした巨大な人の体に、大きなカラスの顔。背中には全長3メートルもの翼。ギンギラ、橙色の目をしてるそうな。

40年前、突然コリドー通りに舞い降りてきて、その場で2、3人食っちまったらしい。そこらの人たちは大騒ぎで、誰か坊さん呼んでこいってなったそうな。たまたま坊さんが近くのスナックでこそこそ、バーボン飲んでたんで、坊さんを席から引きずり落として、坊さんなんとかしてくれい、とみんなお願いしたそうな。カラスの魔物には、坊さんはそれはもうてこずってしまって、レンガの壁に封じ込めるだけで精一杯だった。なにしろバーボン三杯目だったもんですから。

でも、その日からはというと、この薄汚いコリドー通りでも、不思議なほど、今宵のような平和な夜がよく訪れるようになったそうです。

7.06.2006

トイ・プードルの主張

日照時間が長いです。

生活のリズムが多少狂ってしまう人もいるのでは。

たとえば、ついさっき見た。
犬の散歩をする若い女性。小さい犬。

小さい犬が好きな人には申し訳ないけれども、小さければ小さいほど小さい犬が苦手です。かわいいと思える種類も無くはないですが・・・。サックリ言ってしまえば、踏んづけたい、衝動に襲われる。キャキャンキャン・・・ムぎゅ。

・・・友達減りそう。

さておいて。

最近は珍しくもないのかもしれないけど、犬に対して普通に話しかけるんですね。

「赤坂まで来ちゃったじゃない。もう何時よ。もう~。」

「なんで言うこと聞かないの、この子は。」

犬は帰りたくないそうで。主人についていこうとしない。

主人も主人で、つったって綱を引こうとしない。

ただ、つったって、説教するだけ。

いつまでやってられるのかが見たくて、もう一本タバコを吸うことにしました。

7.04.2006

純粋に不順に愛しい

「たちもしないんだったら、ホテルなんかに誘うんじゃないわよ」

女は低い声でいうが、男にはしっかり聞こえている。半照明の部屋は再び静まり返る。カラオケ機の待ち受け画面が数秒おきに色を変える。青から赤へ、赤から青へ。画面にははロンドンの風景が唐突に現れる。ビッグベンや、二段バスの映像。数分前、汗ばんでいたシーツも乾きはじめ、今はエアコンの強風が容赦なく肌を冷やす。事実が判明してから間もなく、二人とも、自分の裸に強い違和感を催す。そのためか、二人の裸体を包む一枚の薄いシーツを、二人ともなかなか手放すことができない。

返す言葉が見つからない。男はうつむきながら、明日の会議、何時だったっけ、と関係のないことばかりを考えてしまう。いつかはこうなるかと恐れていた。顔を上げると、女はベッドから降りて、ソファで下着をはこうとしている。こんなところで一人にされまいと男もベッドを出て、自分の洋服を集め始めた。女の方が一足先に、着替え終えた。

「あたしは先に出るけど」

「ちょっと待てよ」

「どうせ二人揃って出られないでしょ。あたし、まだ終電に間に合うわ。」

白のブリーフと黒い靴下だけを身に付けた男の姿は残念ながら無様だった。
女はすっとんだ発言をする。

「あたしだって、真剣なんだから」

「いや、僕だって」