6.23.2009

僕が悪いのだから

名前は風間憲正、現在逃亡中。
詳細については控えさせていただきたい。

この世で最も恐ろしい生き物は、ライオンでもクマでもなく、「捨てられた女性」であると昔からの言い伝えがある。ライオンやクマが恐いなら、ライオンやクマのいないところに居ればよろしいが、 恨みを持つ女性の場合は逃げようとしても追ってくるので実に恐ろしい。ライオンやクマが人を襲う場合、大抵防衛や飢えをしのぐため、何かと自己実現につながる思考が認められる。一方で、恨みを持つ女性の場合、どのような手段を用いようと相手をこっぱみじんにやっつけることが最終目的なので、結果、予想不可能だし間違いなく野生動物の数倍危険であると言える。

私は、いまそんな女性から逃げている。相当恨まれているはずだ。逃げ切れるか、正直自信がない。男である私が理解できるほど、相手を極限に怒らせてしまっていることはよくよく分かる。結婚式当日に、取りやめたいと言いだしてしまった。理由はともあれ、すべての非は私にあるのだ。しかし、言わせていただけるなら、せめて、結婚を一旦してから言い出したよりかはマシであったと主張したい。当然、いまさらそんなことを言い出せる訳がない。なにせ、私は既に逃亡中の身なのだから。

かれこれ、私が逃げ出したのは6年前の話だ。

私は結婚式の直後、まず仕事を辞めて家をひきはらった。会社の人に知られてはもはやこの街に長居できないと判断したのだ。金目の物も全て売り払った。現金を大量に持っていても仕方がないし、いずれは奪われていく。私はこの6年間、ひたすら金を酒に費やした。これによって余計なお金を処分できたのと、おまけに身体を悪くすることもでき、顔色もぜっ不調だ。ようやく貯金も底が見えてきていて、見るからに幸せのかけらもない様相を身につけることができた(万が一、彼女に発見された場合に備えてのことだ)。住まいは陸橋下のブルーシートでできた簡易テント。我ながら、完璧な変装だと思う。そして、彼女は私から何も奪うことが出来ない。

いつどこで何をされるのか分からないので、私の生活も決して穏やかでない。実は携帯電話だけはまだ持っていて、未だに彼女から時折脅迫のメールが届いたりする。いつも、そろそろ忘れたかな、と思うタイミングで。心臓が止まりそうになる。無論、返信はしない。

そのメールの内容が実に恐ろしいのだ。

話し合おう、話さないと全然分からない、話し合おう。
あぁ、恐い恐い。

6.19.2009

駅弁をほおばる

ヒナミケイスケです。空腹は最良の調味料、という表現がとても好きです。

私は食べることが大好きです。食べ歩くことも、食べ座るのも食べ立つのももちろん可。食べ走るのも大いにアリです。思うに、美味しさには深い深い感動があって、それはある意味目や耳でとらえる芸術よりも身近な反面、果てしなく複雑な宇宙と感じるときもあります。何曜日何時、どの季節で、どこで、だれと、なにを、どのように、そんなことが密に感動に結び付きます。音楽や絵を楽しむとき、敢えて周りの環境を遮断してるのかな、なんてふと思います。ひょっとしたら、もっと食べるように音楽を聞けば新しいものが見えてくるのかもしれません。なんだか、いくら金を払ったか、というベクトルがばかばかしく思えて来ます。もちろん、時と場合というのもあるのでしょうが。

少し脱線してしまいました。

空腹の話ですが、私は最良どころか、感動を得るためなら不可欠と言って過言でないと思います。ある日大急ぎで平らげたチャーハンを、後日そこまでお腹が減ってない状態で食べても、味は間違いなく同じでも、アレ、的な。本当にすごいライブが機械的に生み出せないように、かもしれません。あまりにも偶然やアクシデントの影響が明確であるなか、自らできることは空腹でいることくらいでしょうか。

案ずることは簡単なのですが(笑)。

まったく違う話ですが、日本語には英語のように、ファックやシットに類似した都合の良い言葉がありません。限られた単語を用いていかに言葉の暴力をふるか、それは時に恐ろしいクリエイティブを生み出す気がするのです。とあるサラリーマンさんの肩ごしに見えた大人系の雑誌に記されていた言葉、それは肉便器。思い浮かべる自分が悪いのですが、吐き気がしたのと同時に、これ残念ながらスゲークリエイティブ、と感心せざるをえませんでした。

ごめんなさい。

6.08.2009

思春期が過ぎたら

空を飛ぶことができます。いつからそうなったのか分からないので、きっと生まれつきの能力なのだと思います。同類に出会ったことがないので、今のところ、どういった原理でできるのか、何歳になるまでできるのか、僕の潜在意識やファッションセンスやシイタケの食わず嫌いにどうつながっているか否かについては、詳しいことは分かっていません。

飛ぶ方法はラジコン以上に単純で、思ったとおりに身体が浮いたり、沈んだり、前進後退したり、曲がったりするだけ。トンボのように宙で留まることも出来るし、遅く進みたければモンシロチョウのように、速く進みたいときは果てしなく。体力は使わないので基本的に疲れないし、いつまでも飛べます。その気になれば、ジャンボジェットのように外国へ飛ぶことだってできる気がします。できます、が、外国まで飛ぶには高度が高すぎて空気がありえないくらい薄くて寒いのと、何時間も飛び続けるとさすがに退屈そうなので、試したことがありません。

平たく言うと、残念ながら実用性はあまりないです。まず面倒なのが、できれば人にばれたくないという点。きっとあなたも既にお察しのように、僕が「飛行」の分野以外では世界一平凡で温厚でつまらない人間だったとしても、僕のことをちょっとは警戒されることと思います。それは決してあなたが悪い人だからではなく、僕が明らかに異常、つまり普通では理解できないことをしているから。だから、僕が仮に「旅行行こうよ!」といったら、あなたはまず反射的に「電車で?」と返すのでしょう。まぁ、そこまで露骨でなくとも、あなたの中では僕=飛べるヤツ、となってしまうのでしょう。誰もがそう思うようになってしまうことは、僕にとってはとても悲しいことなので、人にはばらしたくないのです。ただでさえ、あまり使わないわけですから、つまらないことで人生を棒にふりたくないのです。

最近、雨の日が多くなってきましたね。先日の大雨のとき、僕は運悪く革靴を履いていました。2ミリほど浮いて歩くフリをしていたら、水溜りを踏まずに済んだので、靴底を台無しにせず帰ることが出来ました。

6.04.2009

たずねてきた

深夜のこと。家族を起こすといけないので、私は廊下の電気をつけず、両手で壁をたどってトイレの扉を探していました。ところが、廊下は真っ暗ではありませんでした。玄関の外の天井照明が幽霊電球になっていて、玄関の窓を通して不気味に点滅する灯りが廊下を照らしていました。チカチカッ。チッカチカ。

あ~あと思いながら用をすませ、手を洗って、玄関の方に向かいました。ドアを開けると確かに、我が家に一番近い照明が故障していました。明日にでも管理人さんに言っておかなければね、と自分に言い聞かせ、ドアを閉めようとしたところ、背筋がゾッとしました。足元にゴキブリが。ひっ、と後ずさり。

虫は虫でも、幸いゴキブリではありませんでした。そこにはコオロギが一匹、よくよく見ると私を見上げていました。鳴いていたので、オスだったのでしょう。というより、鳴いていたということは、求愛していたのでしょう。ただ、残念ながら私は人間、しかもオスなので、彼の役には立てません。

彼も私の正体を間もなく悟ったようで、ゲっと思ったのか瞬時に鳴き止みました。気まずい空気がすーっとその場に降り、にらめっこが、にらめっこが。らちがあかないので、私は一旦退散し、子供の本棚から虫の絵本を取りに行きました。たしかにコオロギの写真もあったはず・・・あった。コオロギのページを開いて、玄関のコオロギに見せました。求めてるのはこれか?しかし、鳴かない。

「ブス」か?あ、ちがう、これも「オス」だったか。

6.01.2009

アインシュタインの馬鹿

青山清二6才、彼の宝物は貯金箱だ。貯金箱が宝物だからといって、際立ってがめつい子供という訳ではない。十万円貯まる貯金箱。彼の両親は貯金の習慣を身につけてもらうために買い与えたものだ。父親の性格が大雑把で、たまたまファミリーレストランの玩具売場においてあったのが、この十万円のやつだった。

それ以来、お手伝いなりをしてはお小遣いをもらい貯金、お手伝いなりをしては貯金、の繰り返し。一年くらい続いているが、お年玉もふくめて2、3万円は貯まっているはずだ。親からしてみれば、いつか清二が本当に欲しいものがあれば、そのときに貯金箱のお金を使って、貯金の喜びを理解してもらう目論みだ。ただ、清二の中では意識が少しずれていて、逆にお金を「使う」概念がすっとばされている。あくまでも貯金の最終的目標は「十万円」を貯めることであって、金額も規模も年齢的に気の遠くなる水準なのだった。