12.31.2009

さよならじゃない

サンタクロースです。

みなさんに告白しなければいけないことがあります。実は、私は2009年のクリスマスを最後に辞めようと思っていました。もとから、死ぬまでこの仕事を続けられるなんてはなっから思ってなかったのです。といっても辞めるきっかけがなかなか見つからなくて。なんだかんだ難しいのは、毎年クリスマスに挑む決断は、私一人でしているのです。辞めても誰にも叱られることもない。おもちゃのクオリティが落ちたって、文句をいう大人も子供もいやしない。いつか、終わらなきゃならない。そんな想いでした。悲しいかも知れませんが、12月25日が、ただの12月25日になるだけのこと。

でも、やっぱり来年も続けることにしました。気が変わった理由は、昨夜DVDで見た映画でした。照れくさいですが、魔女の宅急便、でした。キキちゃんすごい。くじけそうになったりするけど、この地球が好きです。だから、これからは死ぬまでサンタクロースで居る所存です。どれ、まずはこれから昼寝でもするとするかね。

お騒がせ、しました。

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今年もこれで、felling the titanを終わります。読んでくださったり、多くのコメントや励ましの言葉を下さった方々、本当にありがとうございました。

皆様が穏やかなお正月を迎えられるよう、心より祈っております。

12.29.2009

熱く思うから

黒ヤギ 殿

お元気ですか?私は元気です。
山のこちら側ではかなり雪が深く積もっていて、年齢も関係しているにせよ、最近は歩くだけでも結構苦労します。そちらに会いにいけるのはいつになるのやら。そちら側はいかがですか?

用事らしい用事はないのですが、もうそろそろ我が白ヤギと、黒ヤギの平和協定を具体化していく必要がある、という想いだけでも伝えたいと思っていました。我々をつなぐ唯一の手段が郵便だというのはあまりにも悲しい事態で、ましてや、郵便局がいずれなくなってしまった日には、あなたと私で長年作り上げてきた友好関係も水の泡となってしまいます。ここは一つ、思い切って山の頂上で全てのヤギを招聘するべきと考えます。

これを実現させることは、もはや私のライフワークと言っても過言でありません。何度でも何度でもお願いにあがる所存ですから、どうぞそのつもりで。

そこであなたのさっきの手紙ですが、ご用事なあに?

白ヤギより

12.25.2009

大きな眠りへの長い別れ

僕は三河悟。34才独身、銀行員をやらせてもらっています。昨夜はクリスマスイブだったので、彼女の真純とデートをしました。付き合いはじめて二回目のクリスマスでした。お互い仕事が忙しいので、待ち合わせの時間も遅めだったし、25日も仕事なので早めのおひらきにしました。

彼女の両親には6月に挨拶しに行ったばかりです。緊張しましたが、気さくな人たちで安心しました。真剣にお付き合いさせていただいています、という台詞を発してる自分に正直、驚きました。へんてこりんな台詞です。真剣、という言葉が何なんだ、というのと、いただいて、いない。どうでもいいことなのだけど。これを言うか、お嬢様をください、で迷ったんだけれども、結局、お嬢様とくださいの二つは真顔で言えなさそうだったので消去法で決まりました。真純はとても素敵な女です。自分はとてもラッキーなのです。

デートは西麻布のイタリアンで食事でした。ワインだけは彼女のお気に入りをお店に事前にお願いしておきました。デザートを食べながら、約束してたネックレスをプレゼントしました。よろこんでもらえて良かったです。子供が女の子だったら、結婚するときに娘に譲るのが夢なのだそうです。なにも、あげる日にそういうことを言わなくてもいいのに。まあ、それも大事なことじゃないんですが。

どこか行く?未だにセックスのきっかけを上手く作れません。なかなかこちらの意図を読みとってくれないので(からかわれてる可能性も)、結局ぶっきらぼうに部屋にいっていいかな、と情けなく。交代でシャワーを浴びてから、おでこにキスをしてはじまるいつものセックス。昨夜はいつもより早く果てた。彼女の声が大きめだった気がする。

ハグは身体でキスなのよ、といい寄り添ってくる。終電がもうすぐなのに。

僕らは来年結婚する。
ジューン・ブライドというやつだ。

12.24.2009

勝手に殺す

僕の大好きな映画があります。

ストーリーは恥ずかしいくらい、とんでもなくありきたりで、タイトルも申し上げるまででもない映画だと思ってます。親子の話で、主演ら含め登場人物はみんな欠点だらけです。欠点だらけなんだけれども、それなりに一生懸命愛し合ったり喧嘩したり、成長したりします。いわゆる人間ドラマのエッセンスですね。余計な小細工は、ほとんどなくて。

それで、ごめんなさい、すごく分かりやすいんですが映画の最後では親が死ぬんです。私も涙腺がだいぶゆるくなってきたみたいで、涙と鼻水がでーっと出るんです。最初の5分で読めた展開なのに、コンチクショウ、と思いながらも目と鼻を仕方なくぬぐってるわけです。

いい映画だったので、ふと、親にDVDを送ってやろうじゃないのと思いましたが、幸い思いとどまりました。良い話とは言え、子供から送られてきたDVDで親が死ぬってのは厳しいですよね、きっと。

ジャカジャカうるさい音楽はダメなのよね。少年のころ、ギターを弾いてたときにそう言われたことがあります。今はそんなもんだと思いますが、当時はその発言ですごくショックを受けたのを覚えています。良い音楽のつもりだったので、身内から認められないのはさておき、真っ向に否定されたのが、たぶん、気に入らなかったのでしょう。

12.23.2009

長い別れ、大きな眠り

もしもだけど、ある朝、目が覚めて自分が藤原紀香になっていたとしたら、残りの人生、ポストモダンなコスモポリタン・シングルレディとしての在り方について悩む前に、まずは深く考えずに一旦裸になって鏡の前でガッツポーズを決めてみるに違いない。

もし、ある朝自分がジミ・ヘンドリクスの再来だと悟ったとしたら、日本のコカインの入手事情や時速100キロで迫ってくる 人生の先のコンクリート壁について恐れる前に、まずギターを手にとってどんな音楽が流れ出てくるか確かめるはずだ。

また、三遊亭小遊三(笑点の水色の人、大好き)になれたら、座布団と幸せを運ぶだけで21年分もの生活をまかなってきた山田君を本気で妬む以前に、次の日曜日に向けて、人に愛されるスケベなネタを思い浮かべてると思う。

彼ら彼女らが人生ラクしてるとか、幸せであることを決めつける気は毛頭ないけれども、今のところ30年間、例外なく毎朝平凡極まりない「ヒナミケイスケ」として目覚めてる身からしてみればそういうのにちょっと、憧れちゃったりときめいちゃったりする。目が覚めてから、歯を磨いたり顔を洗ったりするのと同じくらい規則的に打ち込めるステキな何か。それは、女磨きだったり、音楽であったり、スケベネタだったり。なんか、そういうのがとても大事なような気が薄々してます。

先々週は休暇をいただき、アメリカさんに行ってきました。友達に会うために行きましたが、会えた人も、会えなかった人もいました。人を探してないときは、なるべくたくさん歩くことを心がけました。歩きながらずーっとくだらないことばかり考えていましたが、そんな時間があってよかったと思ってます。

12.18.2009

揺れる想いと車両

何の容疑か分からないまま、取調室に放り込まれたのだった。私の名前は川北信次郎。分かっているのはそれと、私が無実だということだけだ。

「あなたは川北信次郎、本人で間違いないですね?」

あたりまえのことをひたすら聞かれる。果たして警察の連中はこんなことが事件の解決につながると本気で思ってるのだろうか。

「これは、失敬。しかし、本人確認は大事な手続きなので協力してください。」

言うことは穏やかだが、警官の表情はけわしくなるばかり。失敬だなんてちっとも思っていない。むしろ、苛立ちがにじみ出てる。

「自宅の最寄り駅。」

はい?

「自宅から徒歩で行ける範囲で一番近い距離の・・・」

いえ、意味は分かりますが関係あるのですか?

「あなたが先ほど書いた住所が本当だったら、決して難しい質問ではありませんが?」

警官は少し得意げに片目の眉を動かす。その一瞬、僅かな笑みをみせた。なるほど。西大島でます。あんまりケチをつけず、素直に答えた方が具合が良さそうだ。しかし、私は次の問いにつまずいた。

「西大島から勤務先まで駅はいくつですか?」

即答できなかった。何駅、なんて数えた覚えはない。なんとなく、目的の神保町の2、3駅前から降りる準備をするだけだから。

「川北さん、あなたは今の通勤路を何年間つかってますか?同じ会社に10年もつとめているのではなかったのですか?」

ちょっと待ってください、西大島、住吉、菊川、森下・・・森下・・・

「浜町です」

浜町、ええ、馬喰横山、岩本町、小川町、で、神保町です。

「私は、数を聞いてます。」

急に不安になった。指を折って数えた。イチ、ニイ・・・。しかし既に勝負はあったようだ。

私自身、信じられないのだった。

12.07.2009

兎に角いそぐのだ

夕暮れがせまってくるので、ものすごくあせっている。
いや、ものすごくあせっている。わかるか。
ものすごく、だ。

私の計算だと、今日の太陽が暮れる前に新作を仕上げなければ、とんでもないことが起きる。締切だとか、怒られるとか、そんな生やさしいものではない。多くの人々の運命が狂う大変な事態が待っている。

私が何を作っているかというと「歌」である。あなた方もよく知っているであろう「歌」。言葉がずらーっとあって、メロディがあって、楽器をつけたりつけなかったりして、繰り返したり繰り返さなかったりして、歌ったり聞かれたりする、あれだ。

そいつを夜中までに完成させるのだ。
とにかく、急いでいる。

問題は、今回の作品がものすごく良い曲なのだ。売ったら間違いなく世界中のヒットになるだろうが、そんなことはどうでも良い。何から何まで完璧に仕上がる予定なので、涙せずに聞ける者は間違いなくいないだろう。人殺しをしそうな者が思いとどまるくらい正義感と希望と前向きさにあふれるサビ。すべての喜怒哀楽がすべての音符にのりうつったかのようなメロディ。それを今夜じゅうに世の中に発信しなければならない。売り出すとか宣伝するとかそんなことは全部、あとで良い。とにかく、出さなければ人が死ぬ。そして、できなかったなら私もいっそのこと自殺してしまった方がよろしい。

なので、ご飯を食べて一眠りしたら、明日の朝焼けに向かって徹夜をしてでもこの曲を完成させなければならないのだ。ないったらない。


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明日から週末まで、少しお休みをいただき旅に出てきますので、メールのお返事や電話の連絡が遅れてしまうことがあります。

どうかご了承ください。

12.02.2009

未完

清水は仙台の出身で、今は東京の武蔵野市でひっそり暮らしている。肩書は一応フリーランスのコピーライターだが、一応の言葉が伴ってしまう理由は、口癖だから、という訳もあればコピーライター以外の仕事をしないと生活を支えられない実情の現れでもある。なにせ、フリーランスという言葉が世の中にカッコ良く響くのは独り立ちができてからの話である。正直歯がゆいことだが、正直でなければ人間何にでもないと本人は考えている。

上京してきました。だからといって、赤の他人に背中をポンとたたかれては「立派だねぇ」、と称えられるような時代ではない。名古屋や大阪から表情一つ変えずに移住してきた知り合いも沢山いる。仕事がここに集まってくるのだから、ごく当たり前のことだ。ただ、清水からしてみれば名古屋や大阪の知り合い達が、例えるとしてイノシシを追って東京にたどり着いたのであれば、自分だったらウサギかムササビとたわむれて東京に迷い込んでしまった気持ちだ。何か特別なことをしでかす計画もなければ、人以上の野心はない。身を滅ぼしてまでガツガツすることはないのだ。その方が、かえって上手くいくことだってある。

そして、この街の小さな一部屋でみかんを食べている。

地元の両親は東京に来たことがないから、想像と期待をふくらませてはときどき電話をしてくる。話を聞いてると、まるで清水が数秒おきに東京という名のハルマゲドンと直面しており、戦の合間で部屋でみかんを食べていると思っているようだ。友達にもこのような笑い話をするが、これはこれでとてもありがたいことであって、励みにもなっている。

母親は言う。いい人がいたら結婚しなさいよ。地元で探すことはあきらめて’あげたん’だから、頼んだよ。ねっ。うるさく言いやしないから。十分、うるさいレベルに達している。そりゃ、いい人がいたら考えるに決まっている。ほろ酔いの父親は言う。せっかく東京に行ったんだからビックになれ、ビックに。父にとってビックカメラは大きな写真機に等しい。

みかんが、ひどくおいしい。