12.31.2010

愛しく殺される

あたしは二十四面相のルリ、特技は結婚詐欺師よ。バカな男をだましてあたしと結婚させて、死んだら金や財産をガッポリ奪い取るの。楽な仕事じゃないけど、見返りが悪くないし上手くやってるわ。

あたしのモットーは徹底的なリアル。一にも二にもターゲットを定めることが大事。ちょっと長い付き合いになるから、お金は大前提だけど、出来れば性格が良い方がもちろんベターね。決まったら、ひたすらアタックすべし。持ち合わせたすべてをその人に注ぎ込んで、愛してもらうの。愛されるためには愛さないといけないの。これは詐欺とは関係なくて、人として当たり前なこと。

結婚した後も肝心で、すぐ殺しに行動を移してはならない。妻として尽くしてあげて、支えてあげて、相談にものらなければならない。当たり前だけど、愛情はここでも大事。子供も作る必要も場合によって。できたら、子供は何も罪はないので、独り立ちできるまできっちり育てる。

自然死に持ってくのが理想型ね。老後はとにかく側にいてあげること。

そしてようやくフィニッシュは、きちんと葬式をあげることね。お金や財産を手に入れた後でも2、3年は泣いちゃう夜が頻繁にあるけど、その内、その内立ち直るわ。

あたしは二十四面相のルリ。世界一の結婚詐欺師よ。

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今年のfelling the titan、これで閉店です。これまで駄文に付き合って下さった方、今年出会った方、音楽活動に関わってくれた方、ありがとうございます。

みなさまが穏やかで素敵なお正月を迎えますよう。

ヒナミケイスケでした。

12.26.2010

ジェンガブロック

やだぁ、出会いが合コンなんて。美枝子絶対やめなって。えー、だからすごく良い人なんだってば。あなたね、さっきから良い人良い人って言ってるけど、それ以外形容詞がでてこないわよ。別の言い方だと特徴ゼロよ?そんなことないもん。ちゃんと働いてるし、面白いしやさしいしご飯はおごってくれるし。あなたね、やっぱり目が眩んでるわ。まだ25才だから、焦ることはないの。よーく考えて。三流商社、趣味は酒と昼寝とスノボー。パッパラパーだわ。

ユリ、あなた、昨日のこと覚えてないの?ニコニコ銀行で、趣味はフラメンコよ。同じ人の話してる?

え?長本昌平さんよね。あたりまえじゃない、昨日は三人で銀座でごはん食べたんだから、人違いのしようがないじゃない。
昨日は六本木で長本さんとミーちゃん入れて4人でイタリアンよ?あなたどうかした?熱ない?すごく意味のわからないこと言ってて、あたし気味が悪いんだけど。

なによ、その言い方。あなたこそ、酒に酔いすぎで変な記憶つくりあげたんじゃないの?

あたし、今日人間ドックだったから、昨日は飲んでないよ。ねえ、あなたユリよね?桂田ユリよね?

あなたこそ、鎌倉美枝子よね?

12.24.2010

客除けパンダ

電話ボックスです。区民館の駐輪場の一角にいます。このご時世、私の存在に気づく人も少なくなりました。私が何だかわからない若い人も、いるかも知れません。仲間も大分減ったと聞きます。

電話を使いにくる人はほとんどいません。しかし、私が今でも撤去されないことには理由があります。実はこの辺、昔からあまり治安が良くなくて、たまにひったくりや暴力事件が起きます。役所のみなさまは、私をおいとけば多少、ボックスの灯りで人気のある雰囲気を出せるだろう、と考えたそうです。

最近、私は幽霊電話ボックスと呼ばれるようになりました。空っぽの電話ボックスからの灯りは不気味なものです。しかも電球が古くなってからはチカチカしていて、怖さが倍増してる気がします。人自体、寄せ付けなくなってしまいました。

このままでは自信なくしそうです。どうすればいいでしょうか。

12.20.2010

日比谷マスカレード

結論から言うと、私は悪い男に騙されているのかも知れません。その男は、満員の通勤電車ではじめて私に声をかけました。永野夏美さん、ですか?と。

私は当然、人違いだと思います、と返事をしました。男はその回答を予想していたかのように、やっぱり違うかあ、とわざとらしく残念がり、前歯をちらっ見せて笑いました。少しかわいかったけれど、はあ、と私はあえて不愉快を態度を示しました。通勤電車というあまりにもお粗末なナンパの場で、軽々しくのるわけにはいかない。私だって、若娘であろうが、一人の女としてプライドがあります。男は何度かジャブを入れてきましたが、降りるちょっと前にようやく、ここでお話するのもなんなので今度ご飯でも、と切り出してきました。

今夜で二度目のデートです。楽しみですが、不安もあります。実は彼にまだはっきりと名乗っていないのです。いまさら、私の名前が永野夏美だなんて言えません。はじめて声をかけられたとき、私はかなりびっくりしたのです。まったく知らない顔の人に突然フルネームで呼ばれたわけですから。間違いなく、私は彼のことを知りません。でも彼はどうでしょうか。

助けてください。

ペンネーム たんぽぽ

12.13.2010

子供が大人になるところ

17才になったばかりの道夫は、ある朝鏡をみたらヒゲが生えてきたことに気づいた。上唇の上に、うっすらと。客観的に見たら、根気のありそうな産毛といった程度だが、本人にとってはもう少し特別で、誇らしいものだった。

このまま、ほっといたらボウボウのフサフサになるのか。鏡を見ながら、人差し指でヒゲをなぞってみた。毛がまだやわらかく、感触は地肌を触れてるのとほぼ変わらなかった。

わざとけだるい顔をつくってみて、もうこんなに生えちまったか、と大げさにアゴをなでて格好つけてみた。母親が台所から、みっちゃん、朝ご飯できたから早くいらっしゃい、と呼んだ。道夫は、んあ、おう、とそのままけだるい感じで返事した。

すっかり声変わりね、と母親が冗談まじりにため息をついた。前はあんなにかわいい声だったのに。どんな男の子もそうだが、母親のこの類のつっこみは嬉しくも何もなく、これ以上反応に苦しむことはないのである。

あなただってね、早く大人になってもらわないと。あの人がいなくなってから、あなたには随分苦労させちゃったけど、ね。あと、良い人いたらあたしのことなんて気にしないで、いつでも結婚するのよ。あたしになんか気を使うんじゃないよ。ただでさえあなたモテなさそうなんだから、誰か付き合ってもらえるんだったら、逃げないうちにね。

だから母さん、今オレ17才だから。あせることもないだろうよ。

母親が再びため息をついた。そういうの、あなたの父さんにそっくりよ。

12.01.2010

いらない占い

地平線が赤に染まると思ったらカラスの鳴き声が耳に届き、あっというまに外は暗くなった。

窓際で子供が手にあごをのせて星空をみている。目を離さず、居間で夕刊を読んでいる父親に声をかける。

父ちゃん、星がいっぱいでてる。

父親は新聞から目を離さず、あぁ、とうなずく。お前、知ってるか。

何?

星のひかりはな、何百光年も遠くから俺たちの見えるところまで来てるから、今見えてる星の姿はずーっと昔の姿なんだ。

どれくらい昔?

何十万年、いや何億年前かも知れないな。

大変なんだね。

まあ、大変と言えば大変だな。
その星はいまは無いかも知れないってこと?

そう。何億年前になくなった星かも知れないからな。恐竜が絶滅したころの星かも知れないな。

父親が最後の一言を口にしたとたん、子供はかぶせるように叫んだ。

父ちゃん、星が急に全部消えたよ?

夕刊から目を離さずに父親はいう。一億年先のことなんだから、騒ぐことでもないだろう。

ひとすじの汗が父親の額にでていた。