7.30.2011

ひるね

眠れないと知りながらベッドに入ることは辛いいことだと思う。

身体を横にすることや、毛布をかぶる動作は簡単だけど、その先どれだけ待たなければいけないのかを想像すると、どうしても心が、身体を動かすことを許さない。意識がすとん、と落ちる瞬間を待つ時間が長ければ長いほど、まるで悪いことを恐れているかのように感じてくる。どんどん胸がドキドキしてくるのも分かってる。

それがどうしてもイヤなので、待つ時間を少しでも短くしようと、考えなくてもいい暇つぶしを考える。

テレビで映画を見ようとするが、窓から差し込む昼間の自然光が画面に反射して、ぼーっとしている自分の残像が画面に映ってしまう。見る自分と、見られる役者が一つにまざって、とても間抜けな絵図になる。そして、シリアスなドラマの役者には失礼だが、話が込み入ってくると同時にまぶたが重くなってくる。

7.13.2011

ワークシェア

1000匹の羊がいる。世界中の人が眠れないときに数える、かの有名な羊たちだ。その羊らは、15世紀未明から不眠症で有名なデンマークの国王が飼育しはじめたといわれ、当時国王が眠れないときは部屋のベランダから見えるように家来に羊らを順次柵を飛び越えさせるよう指示したという。現代においては人々は想像の中で羊を数えるようになったが、デンマークではいまでもその羊らの子孫を大事に飼育している。

歴史上の重要性もあってか、いまでもきっちり1000匹管理されており、0001号から1000号までそれぞれ番号・名称・性別・ジャンプ能力が把握できるようになっている。なかでも想像の中で登場頻度の最も高い0001号から0010号(眠りつくまでの平均数は概ね131匹という統計がある)は国宝扱いを受け、プライベートのトレーナーや他とは隔離された野原が準備されている。0500台以上となると登場頻度が少ないため、比較的平民扱いになる。トップ10は0001号アルベルト(雄)、0002号メリーさんの(雌)、0003号マレーパク(雄)、0004号ヨーゼフ(雄)、0005号スネーク(雄)、0006号ディープインパクト(雌)、0007号あんぱん(雌)、0008号フレドリッヒ(雄)、0009号サブちゃん(雌)、0010号ポチ(雌)となる。

7.02.2011

障子に穴を開けるな

便りがないのは良い便り。

母さんの口癖だ。ヨッちゃんの話をするとき、関係なくても一度は必ずこれを言う。ヨッちゃんとは私の兄の義政のことで、7年前専門学校にいくとかで都会に行ったきり帰ってきていない。

ヨッちゃんは昔から頭が良くて、学校の成績はいつも学年で一番だった。ただ、ヨッちゃんにとってそれはどうでもいいことだったと思う。一時期、受験するかしないかで周りには悩む素振りはしてたけど、はなっから大学に行く気がないことを私は知っていた。雅美、お兄ちゃんな、東京に行くからいつか遊びにおいで、と言い残したのだった。

ヨッちゃんのことだから、のたれ死になる心配はまずないと思った。けれども、遊びにこいとか言うけれど、なんとなくヨッちゃんとは二度と会えなくなる気がしていた。

時々、ヨッちゃんが何をしてるか想像してみたりする。サラリーマンかも知れない。医者か、それとも弁護士になって裕福な生活をしている可能性だってある。ひょっとしたら日本にいないのかも知れない。ガード下か占い師かも知れない。

母さんは気にならないの、とたずねてみても首を横に振る。知りたい気もするけど、知らないのも悪くないわ。どんな男だって隠し事の一つ二つはあるものなのよ。人様に迷惑かけないことだけは叩き込んでおいたんだから、あたしの仕事はもうなにもないの。