12.31.2014

今夜も帰らない

中山くんが失踪してから3年ほど経つ。当時、急に姿を消すものだから身内や友人、職場の人も一丸となって大騒ぎになった。その後、本人から両親宛に一枚のハガキが届き、具体的な居場所は明かさなかったものの無事に生活してるのでそっとしてほしい、迷惑をかけて申し訳ない、という想いが書かれていた。

これほどの事件をおこしておいて、一枚のハガキではぁそうですかとはならないが、居場所がわからないのだから見守るほか何もできない。その後も月一回はハガキが送られてくるようになった。仕事がみつかった、風邪をひいた、良い人ができた、旅行にいった、あけましておめでとう、と、それぞれ短い文章だがこまめに状況がわかるようになった。これほど平穏に暮らしているのだから、と警察にも説得され両親は捜索願いを取り下げざるをえなかった。

妙ではあるが、この関係がいまでも続いている。さらに妙なのが、両親が今の関係に不満を言わなくなった。会えないのはつらいが、ハガキのおかげで失踪する以前と比べて中山くんを身近に感じるようになったという。

やがて中山くんの失踪の原因を追求する者も少なくなっていった。

-------

これで今年最後のお話とさせていただきます。ブログを読んでくださった方、お世話になった方々ありがとうございました。

みなさまにとって来年も健やかな一年でありますようお祈り申し上げます。

ヒナミケイスケ

12.04.2014

フェアプレイ

佐瀬保太郎、29才、稲毛市役所の公務員、趣味はコーヒー煎れ。小学校時代のあだ名はボタロー。地元のごく普通の家庭に生まれ育ち、自ら家庭をつくり穏やかに暮らしたい以外に特段願いはない。よって、現在独身一人暮らし彼女募集中。

相手候補は多くない。ボタローの人間性や交流の広さの問題ではなく、同年代の人口が目に見えて少ない。ボタローとしては年老いた両親の面倒もあるし、そもそも稲毛が好きなので都心に出て行く考えはない。

月に何度か、地元の若者があつまるスナックに通う。若者といっても顔なじみばかりで、店のママも実は同級生。そのママはちょっとしたマドンナ的な存在であり、ボタロー含めて密かに恋心を抱いている輩も少なくない。客への気遣いか、それとも状況を楽しんでいるのかは不明だが、ママは店の外での生活は明かさない。

相手の気持ちあっての話なのでなんとも言えないが、男同士では、出し抜けに最後の茶菓子に手を出せないような状況。あからさまにママを口説く者もいないし、迷惑がかからないよう閉店時間近くになると客がまとめて帰る暗黙のルールとなってる。

ここで唯一男たちに許されてる求愛行為が、ママへの別れの挨拶である。「じゃあまた来るよ」「ゆっくり休んでくれな」「今日は楽しかったよ」など。ボタローのセリフは「気をつけて帰ってくださいね」である。