8.02.2015

ある思い出

松本清、男性35才、会社員、東京都新宿区東中野在住。性格は控えめだが人思いで面倒見もよく、多くの人に親しまれている。

警察官の父、教師の母の間に生まれた一人っ子。子供の頃は親の教育が厳しく、礼儀などについては特にうるさかった。清は概ね素直に育ったが、一度だけ道を外したことがあった。高校三年のとき、塾帰りに友人たちとふざけて自転車を数台盗み、隣町で乗り捨てた。一度きりの悪ふざけのつもりだったが運悪く警察に補導され、その後松本家ではとんでもない騒ぎになったことは言うまでもない。このたった一つの非行からなるトラウマがその後の清の人生を迷いなく「良き市民」の道へと傾けた。

話を現代に戻すと、清はごく普通な会社員。最近健康のために自転車通勤をはじめたのだが、不運なことにこれまで3回も自転車の盗難にあっている。一度目は週末のスーパーで買い物中、二度目は平日の勤務先の駐輪場、そして三度目もスーパー。いずれも同じ型の、量販店のママチャリである。

悪運にもほどがあると考えた会社の後輩が、カギをきちんとかけているのか清に尋ねた。

たかが自転車だからね、乗りたい人に乗ってもらえばいいんです、と清は笑いながら言ったという。その後も懲りずに同じ型のママチャリを乗り回している。