10.25.2015

前田の当たり前と前のこと

前田秋彦50才、カレー屋のチェーン店にてアルバイト(研修中)主に接客担当。ハキとスピードはないが、仕事は順調にこなしており、採用した店長はほっとしている。

仕事の内容は単純。食券を預かり、辛さを伺い、厨房からのカレーを運び、空いた容器を回収。辛さはかならず「マイルド、中辛、辛口」のうちから選択してもらう。「普通」は人それぞれなので、必ず確認。些細なことだが、実はクレームの大半はこのやりとりが起因している。

店は山手線のターミナル駅近くにあり24時間営業、厄介な客もたまに来る。前田の前のアルバイトはチンピラに絡まれたことをきっかけに辞めてしまっていた。見た目が恐ろしかったので、前田の前のアルバイトは「普通」の確認をせず独断で辛口を出した。チンピラにとっての「普通」が甘口だったので怒らせてしまったのだ。

年の処世術あってか、前田が接客する時間はチンピラも外国人の観光客も酔っ払い学生も皆おとなしくカレーを食べて帰るだけだった。「辛さはマイルド、中辛、辛口になりますが」と有無を言わさぬ落ち着いた口調で尋ねるのだった。

店長はシニア世代のポテンシャルに大きな可能性を感じている。