2.21.2016

冷たいお蕎麦が好き

私はかき揚げ天。身体は玉ねぎと人参でできている。名前はない。名前をつけたとしても呼ばれることないまま誰かに食べられてしまうのだ。

私はいま非常にガッカリしている。

天ぷらの命は熱く短い。高温の油からカラッと生まれ、数分寝かされて、そのまま食卓行き。サクッとアツアツのうちに食べてもらうのが我々の本望であり、美徳とも言える。

最近ツウの間では塩で食べるのが流行っているよう。食感と食材の風味を楽しむのに大変よろしい。大根おろしの入った天つゆにちょこっとつけて食べるのももちろん良い。

私は温そば行きになってしまい、素直な気持ちとして落胆している。いや、食べ物としてかき揚げそば、何も恥じることがないのは十分に分かっている。私の衣がたっぷりだしを吸って、油の甘みと絶妙なハーモニーを生み出すこともわかっている。この舞台のスターになれることだって、分かっている。けれど。

この短い命ならば、願わく自分の一番美しい姿で幕を閉じたい。せっかくカラッと生まれてきたのに、次の瞬間ぶよぶよのふにゃふにゃで、形を保つだけでいっぱいいっぱいである。万が一食べ主が猫舌だったりすると、食べることに要する時間がかかってしまい必ず事態は泥沼化する。

この出落ち感、どうしてくれる。