4.23.2017

熟年上京

◯◯県の山奥のそのまた奥、とある村のこと。過疎化だ高齢化だ、踏んだり蹴ったりの限界集落だ、65歳以上が人口がいつのまに7割を超えてしまった。自治体は機能しておらず、生活インフラの維持すら危うい境地に立たされている。

「拓郎さんがいなくなったら、この村はもうおしまいだ」

清水拓郎58才、無職だが、村民の心の寄せどころとなっている人物。15年前に妻を病に失い、子供も身寄りもいない。畑仕事で鍛えられた身体は丈夫で、持ち前の誠実さ、元気と行動力もあわさって自ずと影響力をもつようになった。

生活道路の補整、イノシシによる畑の食い荒らし問題の対策本部、ガソリンの確保、雪かき、田植え時の人材確保、夏祭り、酒屋の宅配など、清水拓郎の守備範囲は多岐にわたる。一時期は村おこしを試みたが、売り物になり得る名物がないことと、どうしようにもない交通アクセスの悪さを主因として断念することになった。

「拓郎さんは幸せに、長生きしてもらわにゃいかん」

村民の関心は清水拓郎の幸福に集中した。年齢ギリギリだが再び世帯をもつことも考えられるが、肝心の花嫁候補がいなかった。村民は嫌がる清水拓郎を説得し、都会の熟年婚活パーティーに送り出した。街で仕入れてきた雑誌のレオンと、みんなで集めた現金5万円をもたせ、TPOに合う服を買うようにと促した。